【稲川通信 2】摂田屋本陣
河井継之助は摂田屋の本陣で、諸隊長を前に演舌する。
そもそも、王師は戦いを好み、人民を苦しめるものではない。だが、いまの官軍をみるに彼らは兵威をみだりに誇示し、戦争を挑発しているかのようである。それに徳義たる義理人情を放り出し、他(ひと)を不徳不義に陥しめようとする気配が濃厚である。
これらをかんがえると、彼らは天皇の名を借りて、私欲をたくましくする奸賊だと思う。我長岡藩はその奸賊を誅殺する。それは新しい日本の国家のためだ。諸君は隊士鼓舞し、士気を励まし、たとえ敵にあろうことになっても、向う側より発砲しないかぎりは反抗してはならない。
といい、意気軒昂。心中の不平が満面にあふれ、眼光は爛々としていたという。
先日の小千谷談判の不調を受け、その後、川島億次郎との談判の結果、諸隊長に通達した。
光福寺周辺には長岡藩兵が充満していた。それぞれの宿陣地に隊長は帰り、やがて攻め込んでくる西軍兵士との戦いに備えたのである。
このときの河井継之助の胸中には、一藩が独立しても正義を貫こうとする強い決意があった。長岡藩兵三大隊二十三小隊、砲三十門、その藩兵千三百余人で西軍と戦おうと決意した。